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用心棒

観客を楽しませるために徹底的に面白い作品を作る。それが黒澤映画の魅力です。
「用心棒」はそうした痛快娯楽映画の代表作、悪党たちを退治する浪人の活躍を描いています。

黒澤はどうやって迫力ある映像を撮るか、11年ぶりにコンビを組んだカメラの宮川一夫(みやかわかずお)に、
「宮川さん、望遠(レンズ)で撮れないか?」
宮川は
「果たしてレンズが集まりますかどうか…」
しかし、現場には数多くの望遠レンズが集められました。
望遠レンズで動き回る俳優を大きく撮影すると、動きがよりスピーディーに見えることを二人は知っていたのです。

この映画の魅力のひとつは個性的な悪党ども、黒澤は面白さを追求するあまり、普段はこだわる時代設定ですら無視します。仲代達矢(新田の卯之助)は手には拳銃。マフラーはイギリス製といういでたち。
ところが、黒澤がリアリティにこだわった所があります。それが、殺陣(たち)回り。
これまでの日本舞踊をもとにしたチャンバラなどと違い、黒澤は本格的な殺陣回りを目指します。

凄腕の浪人を演じたのが三船敏郎。力強く無骨に見える殺陣(たち)回りは正確でとっさの踏み込みなど簡単に行っていたのです。豪快で野性的な外見の三船ですが、実は神経の細かい努力家で殺陣(たち)回りの工夫も率先して行っています。
その結果が、時代劇を変えたとまで言われたあの殺陣(たち)回りでした。

黒澤は役に取り込むそんな三船のまじめな性格を知っていました。
三船を自らの分身であるかのように様々な役につけたのも「三船ならやれる」という思いがあったからなのでした。

大ヒット作となったこの映画についてのちに黒澤はこう言う。

「三十郎という男は面白いという点が肝心なんですよ」

三十郎とは黒澤と信頼で結ばれた三船敏郎そのものだったのです。
・世界で初めて人を斬る効果音を入れた。
・斬殺音は鶏肉に包丁や割り箸を刺したときの音を使用。
・世界で初めてポンプを使った血飛沫を出す。
・宿場の殺伐感を出すにはどうしたらいいか悩んでいた黒澤は セットに落ちていたスタッフの軍手をヒントに犬が手首をくわえて走るという伝説的なシーンを思いつく。
・火事のシーンに使うセットの材木を集めるためにスタッフは本当に火事のあった現場に行き、焼けた材木を貰ってくる。
・画面を覆いつくしてしまうあの砂ぼこりは、石炭ガラを敷いた上に塩と土をまいて踏み固め、その上に石ころと枯れ葉、 戸塚の射撃場から運び込んだ何トンものほこりを撒き、セスナプロペラの扇風機1台、V8フォードのエンジン付き扇風機2台、 5馬力モーターの扇風機3台をフル回転させた。
・片腕が切断されるというシーンは古今東西色んな映画やアニメで見られるが ジェリー藤尾の片腕切断が元祖である。
・時代劇に初めて身長2メートルの巨漢が登場。
 これ以降アクション映画やSF映画に巨漢キャラがよく登場するようになった。(ジョーズ、チューバッカ、ヒューマンガスetc)
・時代劇にマフラーを首に巻き、手に拳銃を持った斬新なキャラを登場させた。
・造り酒屋の酒樽は映像効果を上げるために考証を無視して巨大に作った。
・三船敏郎はラストの10秒で10人を斬る立ち回りをやるためにラグビーの試合を参考にした。
・音楽は重量感とユーモアを際立たせるために弦楽器の編成からバイオリンを外して演奏。
・画面のツヤを出すためにカラー作品に使われているカーボンライトを使用。
・イタリアで「荒野の用心棒」というタイトルで盗作されマカロニウエスタンのルーツとなる。
・1961年ヴェネチア国際映画祭で主演の三船敏郎が男優賞を獲得。
・犬が手首をくわえて走る場面を見たルネ・クレールは「ダリでも真似できない」と賞賛した。
・ジョージ・ミラーはマッドマックス2を撮る前、主演のメル・ギブソンに「用心棒」を見せて演技の参考にさせた。
・善人でも悪人でもない三十郎の強烈なキャラクターは時代劇のみならず劇画、スポ根、バイオレンス映画に多大な影響を与える。